
ウェアラブルが計測する「生物学的年齢」——Guillermo Sapiro氏のCHIL 2025講演より
2025年6月、UCバークレーで開催されたCHIL(Conference on Health, Inference and Learning)にて、プリンストン大学教授でありAppleのDistinguished EngineerでもあるGuillermo Sapiro氏が注目の講演を行いました。タイトルは「A Wearable-Based Aging Clock Associates with Disease and Behavior(ウェアラブルベースの老化時計は疾患と行動と関連する)」。
本講演では、スマートウォッチで日常的に取得できるPPG(光電式容積脈波)信号から"生物学的年齢"を推定、実年齢との差分をベースに疾患リスクや生活習慣との関係を読み取るという、大規模かつ現代ヘルステックを象徴する研究が紹介されました。
Guillermo Sapiro氏について
ギジェルモ・サピロ(Guillermo Sapiro)は、画像処理・コンピュータビジョン・機械学習の分野で世界的に著名な研究者であり、2025年1月からプリンストン大学の工学部教授として就任予定です(電気・コンピュータ工学、Augustine Family Professor)。これまで13年間デューク大学に在籍し、現在はAppleで医療系AIツールを率いるエンジニアでもあります。
HP時代には火星探査機の画像圧縮アルゴリズムを開発し、Adobeや脳神経外科用FDA承認技術など、多くの分野に応用されました。最近では、自閉症の早期診断を可能にするアプリも開発し、18ヶ月の子どもでも診断可能な支援技術を構築しています。
なぜ"老化"を測るのか?
高齢化は多くの疾患リスクに直結します。しかし「年齢=カレンダー上の年数」だけでは個人差をまったく説明できません。そこで注目されるのが"生物学的年齢"。体の中の実際の老化度合いを数値化し、健康状態や予防医療に活かす動きです。
従来は、DNAメチル化や血液検査といった侵襲的かつ高コストな手法が主流でした。しかしGuillermo氏のチームは、日常生活の中で、腕に装着したスマートウォッチが自動的に取得しているPPG波形にこそ、大きな可能性があると着目しました。
光電式容積脈波計(PPG)は、心拍数の変化に対応する動脈および毛細血管の血液量の変化を測定することによって心拍に伴う脈波の情報を得る装置です。PPGセンサーは赤外線を照射する(一般的に発光ダイオードを使用)ことにより、心拍数の変化を検出します。
モデルの構築と精度
この研究では、Appleが主導する大規模研究AHMS(Apple Heart & Movement Study)から、約18万人分のPPGデータを用いてモデルを構築。20秒間の波形セグメントを2,000万件以上収集し、自己教師ありの機械学習で"血管の個性"を捉えるベクトル表現を学習。その後、特定の疾患との関連性を調査しました。
健常者約9,600人の30日分のデータを使って、年齢を推定する線形モデルを構築。その結果、±4年の誤差(MAE)で年齢を予測可能であることが示されました。
Wearable Age Gapとは?
「Wearable Age Gap(WAG)」という推定年齢と実年齢の差分を用いた新たな指標を使い、WAGによって疾患リスクが高いとされる集団に病院での検査を促したところ、健康状態・生活習慣との明確な相関が示されました。
たとえば:
- WAGが高い男性は心血管疾患の罹患率が1.5〜2.5倍
- WAGが低い群は逆に保護的(0.4〜0.6倍)
- 喫煙者は**+4〜6歳**、運動不足で**+3〜4歳**、睡眠不足で**+1歳**のWAG増加
- 妊娠後期では一時的に**+3.5歳**分増えるが、産後には回復する
これらの結果は、WAGという指標が、単に理論的な提案ではなく、実際の行動や疾患と結びついた有効な生体マーカーとして機能し得ることを示しています。
What is next?
Sapiro氏が強調したのは「PPG由来の年齢指標でハイリスク集団を客観的に抽出できる」という事実と、「介入研究との連携が今後の課題」という展望。従来の検査を補完し、早期層別や介入評価の精度を高める役割が主眼とされています。
主なポイント
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"Large, daily living digital health" → 日常生活下で収集された大量のPPGデータが解析対象 → 病院での検査ではなく、生活中の連続的なバイタル情報が医療に加わる
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WAGと疾患/行動の関連 → WAGが高い人ほど心血管・代謝疾患リスクが1.5〜2.5倍 → ハイリスク群の早期層別が可能 → 検診や介入の優先度づけに使える
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妊娠に伴う一過性のWAG上昇と回復 → 妊娠後期にはWAGが一時的に上昇し、産後に回復 → 短期的な生理変動も捉えられる → リアルタイムでのモニタリングに有効
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"What is next? – Biological age × interventional study?" → 次のステップは介入試験との組合せ → 生活習慣改善や薬剤投与によるWAGの変化を指標化 → 介入の有効性を定量的に評価可能
最後に
ギジェルモ・サピロ氏はウルグアイ出身で、NASA、Adobe、Appleといった最前線で40年近く研究を続けてきた人物です。今回の講演後、短い立ち話の中で「明らかな兆候がありながら発見が遅れた友人の事例」に触れ、淡々と「データは数字としてそこに表れる」と語ったのが印象的でした。
研究者としてはあくまで科学的エビデンスの積み上げに徹する姿勢を崩さず、それ以上の「医療のあるべき姿」については語らない。その距離感こそが、彼の研究スタイルを象徴しているように思えました。
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